ホテル客室清掃のお話。

ホテル客室清掃についての色々な話を、現場作業から現場責任者、担当者まで経験してきた人が語るっていうブログです。

忘れ物について思うこと。

tugetter でこんな記事があり、はてなでもホットエントリーしてたので、私の目にも止まったわけだが。

 

togetter.com

 

ツイッターでも書いたけど、確かにね、ゴミ箱に入れずに放ったらかしにされてチェックアウトされてしまうと、ゴミ箱に入ってないものは忘れ物だ、とそう考える他はない、――というのがどうやら業界の建前。

 

まずそのことについて言いたいが、そんなわけはない。現実に働いてみたらいい。ゴミ箱に入ってないものを忘れ物で全て出す、なんて出来るわけないぞ。そんなことしたら、エゲツないことになる。とにかく量が多すぎる。もちろんそうじゃない場合の部屋の方もあるけど、とてもじゃないけど、ゴミ箱に入ってないものを全部忘れ物で出すなんて出来っこありません。

 

99%ゴミだし、99%忘れたとの申告もないのが現実です。多分、問題になりそうなのは1%よりも遥かに少ないです。だからそういうのは建前の話に過ぎず、現実には無理なのは少し考えたらわかる話で、実際に毎日忘れ物の取りまとめ処理してた私も、清掃終了後におろして来てくれる忘れ物でさえも、ホテルに無断で黙って捨ててました。見りゃわかるんです、そんなもん保管する意味などないって。もちろん確率的に絶対にあり得ないとまでは言い切れないけど、キリのない話でもあります。

 

当然、メイドさんが部屋で掃除してる時だってそうです。どんなに几帳面な人だって、床に落ちてるお菓子は捨てます。紙くずだって。なので、ティッシュペーパーに包まれてた入れ歯も一緒に捨ててしまい、面倒なことになったこともありました。そういうリスク込みで仕事する方が、クソ真面目にやるよりずっと効率もいいし、問題も最小化出来るのです。真面目にやりすぎると、どうでもいいようなことで、責任者側もメイドさん達を怒らなければならなくなりますし、解決方法みたいなことまで考えて行かなければならず、そんなの現場にとって一つもいいことなどありはしないのです。ホテルに怒られる時は怒られればいいのです。その方が遥かに楽なのです。

 

結構いい加減だと思われるかもしれないけど、忘れ物はあまりにもたくさん出てくるし、99%以上は結局捨てるだけだし、実際に忘れ物に分類されているものを見たら、知らない人は絶句するはずです。だって、それでも大半が脱ぎ捨てた靴下の片割れだとか、旅行でしか使わない歯磨きセットだとか、そんなのばっかりなんだから。ある程度適当にやってさえも、そんな感じなんだからね。

 

もちろん、お客さんがゴミは全部綺麗にゴミ箱に片付けてくれて、忘れ物は一切なし、というのが清掃側にとっても理想というのはあります。ただ、現場をやった私が見る限り、半数以上のアウト部屋は概ねそうなってたと思います。概ねそんなに部屋は散らかってないし、忘れ物もありません。だから、散らかった部屋が目立ってしまうのではないかとも思いますね。もちろん、かなり汚れてて苦労した経験も何度もありますけど、全体から見ればそういうのはほんの僅かです。

 

結局、同じ話になりますけど、苦労したら苦労する分見合うだけの何かが得られるのか? という話になります。単にお金だけの話ではありません。出来ることは出来る範囲でするけど、不必要なまでにきっちりやる必要もない、というのが私の考えでした。どのみち、どんなにきっちり仕事してもリスクは消えるわけではないので、それならばある程度のリスクを覚悟して、リスクコントロールの方に重きを置いた方がいいだろうと。例えば何かあった時の事後処理を迅速にかつ適切に行えるよう配慮を怠らない、とか。仕事していく以上、事件や事故が起こらないことなどあり得ないんだから。

 

で、トゥゲッターの話に戻りますけど、画像を見た多くの人が「大変そうだからしっかりゴミ箱に捨てて忘れ物の確認もしよう」と仰っておられるようで、現場の人にとってもありがたい話だとは思いますけど、現場の人はそれが仕事なのだし、仕事する側としては、そうしたリスクコントロールまで考えて業務に取り組むことが大事なのであって、お客さんにお願いなど不要だと思います。マナーはお客さんが自分自身で判断すれば良いことだし、押し付けることでもないかな、と。

 

そんな風に思いました。

 

えええ?そんな清掃あり? という暴露話。

今回は、清掃内容の暴露話。

 

1.コップなどの洗い方はどうやってるの?

私は経験がないのであれはいったいどうやってるのかな?って別のホテルで思ったことがあるのですが、ホテルによっては、グラスなどを透明の袋入りにしていかにも真新しく清潔感のあるようにしているところがあります。あれってどうやってるんでしょう?まさか毎回新しいグラス買うわけでもないだろうし、しかし一個一個確実に袋とじにされているので何か機械でもない限り無理だろうと思います。でもあれが一番いいですね。(※記事書いた後に判明。そういう袋も販売されてるんですね。でもこれ、袋にそう書いてあるからって・・・)

item.rakuten.co.jp

 

では私の現場ではどうだったかというと……恐ろしいことに、気の利いた人が自前で用意してない限り、食器洗い洗剤などありませんでしたし、その場にあるハンドソープ使うくらいがせいぜいで、ひどい場合は水洗い、あるいは固く絞ったタオルで拭き取り。しかも、食器洗いの時は必ず布巾で水気を拭き取るべきなのに布巾すらありませんので、お客様用ハンドタオルなどを使ってたりしてました。

 

とにかく見栄えさえバレなければそれでいい、って。こっちも真面目にやらせたいのは山々でしたが、安い上に人員不足という厳しい条件下では、布巾すら用意させられませんでした。当初はあったのですが、ホテルが用意してくれず、清掃会社が自前で用意する他なかったようで、宿泊客にはわからないだろうと、いつのまにかなくなってしまってましたね。お客さんが知ったら絶句する話です。

 

2.トイレはどうやって洗っているの?

これはひどい実態でしたね。私の前任者の責任でもあるのですけど、その人はまともに清掃指導なんてやらなかったのです。あれだけ厳しかったのに、実際には見て見ぬ振りでした。だから、私が責任者になるまでは、まともに洗剤すら使ってなかったのです。驚くべき話でしょ? だからせめて洗剤くらいはと、コスト面を考えて出来るだけ安くて使い勝手もよく評判の良さそうなピロキシーっていうアメリカ製の洗剤を使わせました。あと、トイレ便器を手で洗うのを嫌がる人もいるだろうと、清掃用品会社の勧めてきたトイレブラシを導入したり。

 

 

 

トイレ清掃は、スポンジ使って手洗いすべきですけどね*1。しかしながら、とにかく賃金が安いしスピードが求められるので、部屋数を多くやりたい人などは、見た目さえキレイだったら清掃自体しない人も多く、見た目が問題なければチェッカーにもわからないので、困り果ててました。どんなに見た目がキレイでも毎日ちゃんと清掃しないと、わずかずつ汚れが蓄積してしまい、見えにくい部分はひどく汚れてました。

 

なので、せめてと思い、週に一度だけ、トイレを徹底清掃、少なくとも洗剤は使えと指示するのが精一杯。兎にも角にも酷い実態です。とてもじゃないけど、お客様が触れる部分と触れない部分で使うスポンジを分けろとか、そこまで指導するなんてとんでもない話で、洗剤使わせるだけでも大変でした。

 

3.埃は?

 これもかなり悩みのタネでした。埃なんて極端な話、溜まらないところはないのです。天井にすら付着します。もちろん、天井拭け!とまでは言いませんけど、手の届くところならば全部やって欲しいわけですよ、やらせる方としては。もちろん無理のない範囲でというのはありますけど、実態はそれどころじゃなくて、ちょっと見りゃわかるだろ!ってところでも拭かない人が結構いて、その箇所が多過ぎるのでチェッカーもよほど酷くない限り、メイドへの指導もあまり出来てなかったと思います。結局クレームさえ出なければいいや、みたいな。

 

4.バスタブ洗剤は何を使ってるの?

 専用洗剤は使ってませんでした。もちろん知ってます。一般家庭ならバスマジックリンなど普通に使ってる話なのですけど、実際に使ってたのはシャンプーやボディーソープです。プラス、バス洗い用スポンジです。

 

ルースター バスクリーナー LK-1

ルースター バスクリーナー LK-1

 

 

これではなかったと思いますけど、とにかく、専用洗剤を使わないとか、すごい話だと思いませんか? でも実際無理なんです。だって、メイドさん一人一人バケツとアメニティカゴを持って部屋を移動しながら清掃していくんですけど、シャンプーやらボディーソープなどの各種補充用洗剤やら清掃用品をバケツに突っ込んでますから、増やし過ぎると入りきらないし重いし、毎日の補充作業も大変で、補充しない人がいたら文句が出るし、それを指導する手間もあるし。管理する側も大変。あれやこれが破損した、失くなった、ってのが毎日だし。

 

 

 

ってな実態。それでも、結構頑張りました。例えばシャンプー、ボディーソープ、コンディショナーって三種類あるんですけど、時々コンディショナーにシャンプーが誤って入れられたりして、お客様→フロントからめちゃくちゃ怒られましたけど、メイドさんが使用する補充用の入れ物を工夫して誤混入させにくくして、さらに曜日によって補充する種類を固定したり。それでも誤混入はなくなりませんでしたけどね。とにかく、出来ることは細かく細かく工夫し尽くしたとは思ってます。

 

言い訳したくはないけれど、やっぱり清掃単価が安過ぎるんです。例えば、地域最低時給が900円だったとすれば、ホテル客室清掃は最低でも千円以上であるべき仕事だと思います。安すぎて、人手不足で困り果ててて、稼働率90%越えの毎日では、厳しく指導なんて出来ないです。

 

とにかく、もっと多くの人に実態を知ってもらいたいので、今回はこんな話をしました。

*1:コーティング処理されている場合はスポンジの手洗いはコーティングをはがす要因になるので手洗いは避けましょう。諸般の事情でそのホテルではコーティング処理を施したため、ブラシを導入したのはその理由もありました

辞めたのでちょっと暴露する……(注)大したことありません。

暴露するったって、守秘義務は辞めてからも適用されてしまうので、やばい話はできません。例えばどこのホテルに勤めていたのかについては、明言は避けます(守秘義務になるのかどうかはしりませんが)。後、誰それが不倫していたとかもヤバすぎます(笑)。なお、勤務地は京都であったとだけはいっておきましょう。ほとんどバレバレ寸前で語ってきたのでわかる人にはわかっていたとは思われますが。

 

というわけでお話しするのはできる限り役に立つ系です。

 

ホテル客室清掃というのは、やることの基本はどこでも同じでしょう。出勤時間があり、朝礼があって、清掃作業に入り、終わったら帰る、ってだけの毎日です。しかしながら、従業員の給与をカウントするにあたって、時給制度にしている場合、例えばこんな問題が生じやすくなります。

 

早くて綺麗な清掃をする人が、遅くて雑な清掃をする人と給与が同じ、ということは不公平。

 

時給制で、10時ー15時の5時間で時給千円だと、五千円貰えるわけですが、同じ時間で五部屋しかできない人と七部屋できる人で同じ給与というのはあり得ない話ですが、現実に人によってスピードは異なってしまうわけです。個人間の能力差というのは如何ともし難い話です。

 

じゃぁ、ということで、人手不足ですから、遅い人に時間をオーバーしてでも早い人と同じ七部屋のノルマを課してしまうと、これは五時間分しか給与を払わないのに、二時間オーバーさせるということでその分を払わないというのは違法です。

 

あるいはそれならと、七部屋出来る人がそれでは不公平だから、五部屋にして早く終わるけど給料は五時間分払って欲しい、というのも変な話です。四時間で終わって帰ってしまうのなら四時間分しか払えません。

 

ホテル客室清掃というのは、パート仕事と考えた場合、一般的な就労現場とはかなり異なり、能力差が大きく影響してしまうので、均一時給でやらせるのはかなり難しい問題があります。もっともこの仮定では一人一室清掃という考え方になっているのでその点は注意する必要があります。

 

ではこれを解決、あるいは不公平感を低減させるにはどうすれば良いかというと、単純に言えば部屋数の歩合制にすればいいのですが、それをそのまま実行してしまうと労働法規上は違法になってしまいます。給与はあくまでも時間単位で支払わないといけないというのが労働法規上の原則です。

 

以前にもこの話はしています。

 

hotelsekininsya.hatenablog.com

 

メイドさん達を個人事業主扱いにし、契約書を個別に交わして、請負契約とし、雇用契約という形を取らない、という方法ですが、これは完全に偽装請負であり、訴えられたら会社は負けます。やってるところが結構あるという実態は聴いてますが、ダメなものはダメです。

 

ではどうすればいいのでしょうか、という問題ですが、この話は違法な話なので暴露してもいいと思いますので言いますが、辞めた会社はまさにこれをやってました。勤めている間は自分にも及ぶ話なのでこのブログ上では曖昧に誤魔化したり出鱈目を言ってましたが。

 

もともと請負単価が安過ぎるので、地域最低賃金でやらせても赤字は必至で、あの請負単価で利益を出したいならこうする以外にありません。私は何度も時給にすべきだというような話を内々にはしていましたが、ともかく酷い話です。それが為に、メイドさん達には労働法は適用されず、労災も降りないし、失業保険もなく、有給なんてあり得ない*1世界の話になってました。

 

違法な話はさて置くとしても、この問題の根っこは請負単価の適正なレベルというものがあると思います。以前に見積もりの話をしていますが、きちんと見積もりすれば、企業の適正な請負金額というのは簡単に出てきます。

 

さて、それは踏まえた上での話として、ではどのように公平さを実現していけばいいのかという話をします。その為には、メイドさんの労働の質と量をどうにかして計測する必要があります。質については、メイドさん達のレベルに応じて時給にランクをつけるというものですが、評価基準をどうするのかについては色々な考え方があり、今回はちょっと難しい話なのでこれは割愛します。

 

もう一つの量は比較的簡単です。部屋数、部屋の種類や清掃のやり方などでの区分などを厳密にカウント出来るようにして、記録し、賃金に上乗せしていくという形です。カウントして集計し、データ処理して賃金計算するだけなので、簡単といえば簡単なのですが、これ、一応、請負制度のもとでやったのが私なのですが、実は集計する側はかなり大変です。過去にその辺の話はしていて、集計システムをわざわざかなりの労力をかけて作成して楽にはしましたが、あのシステムがなければお手上げでした。

 

で、おそらくそこまでやってるホテルなんてほぼないに等しいのが現実だと思います。多分、時給制であったとしても、実態は日給制、つまり早く帰ろうが遅くなろうが同じ給与しか払わない、というところが多いと思いますね。歩合制の部屋数だけというのはそこそこあるみたいですが、仕様が単純でないホテルでは部屋数だけでは不平不満を解消できませんし、一体どうやってるのか教えて欲しいです。

 

ともあれ、労働法規を守ってまともにやろうとすると、賃金計算は大変だという話でした。しかし、これなんの暴露話やねん(笑)。あ、もし賃金計算システム作って欲しいなら、コメントでお話しいただければ、ご相談させていただきたく存じますので、よろしくお願いします。

 

*1:厳密にいうと適用されると思います。何故かというと請負契約は違法であって、実態は雇用契約に相当すると判断されるからです。もし請負契約になっていて労災などで困っている方がおられたら、労基署等に相談してください。違法なのは会社であり、働いている人ではありません。

ご報告二つ。

えー、一つ目は・・・。

 

正式に辞めました。かなり勇気と思案が必要でしたが、決意だけは揺るがず、あとはいつ決断を下すだけかの問題でした。それで、辞めました。次はまだ見つかっていません。取り敢えず転職活動しながら、リフレッシュしたいと思います。とにかく、ズルズル居続ければ居続けるほど自分自身を巡る状況は悪化する以外に道はなかったので、スパッと辞めなければならなかったんです。ホテルの方はうまく行けばいいのになぁとは思ってます。自分の出来ることはやりましたし、あとはもう人手不足さえなんとかなれば、やがては値上げにつながり、きっと会社も赤字に悩まされなくなるでしょう。でも私自身は居続けることは無理でした。

 

二つ目。全然関係のない話です。ブログのテーマにも何にも関係ありません。小説連載し始めたので出来たら読んでほしいなぁという話です(汗)

 

kakuyomu.jp

 

これが金に繋がればいいのにと思いはしますが、まぁ99.999%無理ですw

ともあれ、頑張って面白くしようと考えまくって書いていますので、楽しんでいただけたら最高に嬉しいです。ご興味ある方はどうぞ是非読んで下さいね。ていうか、読め!(笑)

 

あと、このブログはまだ止めるつもりはありません。会社を辞めたので、守秘義務負ってる部分以外なら、書けることはいっぱいあります。現場にバレようと会社にバレようと私にはなんにも関係のないことですからね。もちろん、現場にも会社にも迷惑かけるつもりは一切ありませんし、そんなことは書きません(書く時は嘘を混ぜて迷惑かけないような形にします)。

 

というわけで今後ともヨロシクね!

ステンレス熱焼け取りの効果について。

 

hotelsekininsya.hatenablog.com

 

この記事の中で紹介したステンレスの熱やけ取り。実は一緒に写真も載せようと思ったんだがその時は見つからなかった。今回、見つかったので下記に載せます。写真はトリミング等調整せずそのまま。

 

熱やけ取り施工前

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 熱やけ取り施工後

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実際、熱やけ取り剤はほんのちょっと使うだけです。上の場合なら、蓋の裏一枚につき小指の先程度をウェスで全体に擦り付けて数分待って拭き取り、あとは水洗いするだけ。よくわかりませんが、成分の何か酸みたいなのがステンレス表面に働いているんだと思われます。ジフなどでこすっても傷だらけになるだけだし、こんなあっさり見事なまでに綺麗になるのにびっくり、嬉しがってしまい、百台以上のポットを処理したと思います(笑)

 

こちらからは以上です。

客室清掃責任者を始める上で立てた戦略。

今から二年強くらい前にホテルの客室清掃責任者となったわけであるが、前回書いたような請負単価の問題はずっと前から知っていたので、私の戦略の基本は単価アップをどうにかして実現すること、だった。結果的に単価アップは若干ながらも果たせたので、百点とは言えずとも、及第点だとは思う。

 

ともかく、戦略的にやらないとうまくいかないという読みが最初からあった。何故戦略的にやらないとうまくいかないかという説明の前に、戦略とは何かという、私個人の考え方を説明する。そんなに仰々しいものではなく、かなり大雑把なものだ。

 

戦略とは何か

辞書で引くと「組織などを運営していくについて、将来を見通しての方策」などとある。この意味からいうと、大切なのは「将来を見通」す事であり、しっかり目標を定めてそれを達成する為に計画的に業務を進めることである。計画自体は何度修正しようと構わないが(実際、失敗したアイデアは多い)、将来の目標、すなわち「単価アップ」だけは変わることはない。いずれにせよ、どんな些細な事柄であろうとも全ての目的は単価アップを果たすことでなければならない、というか少なくとも単価アップにつながるものでなければならない。

 

何故戦略的でなければならないか

漠然とした考えを排除する為だ。例えば、厳しく指導してたら品質も上がるだろうし、不備も減るだろうし、そうすれば多分ホテルサイドも信頼が増して、単価アップにつながるだろう、などというのがそれである。それではあまりに漠然としていて、具体性がなく、まるで精神論が過剰すぎて敗戦に至ったかつての大日本帝国軍隊みたいなものである。それも一つの戦略と言えないこともないが、戦略と呼ぶにはあまりに中身がないと言わざるを得ないだろう。戦略的でなければならないとはすなわち、百パーセント達成できるとは言わないまでも、目標達成をより確実にするものでなければならない、ということだ。

 

戦略は達成後を見据えたものでなければならない

というのは、継続的に単価アップが繰り返されるような流れを作らないとダメだってことである。あまりに安いからと行って大幅アップなど無理だし、かといって一度程度の小規模アップで納得されても困る。とすれば、一年契約更新単位くらいのスパンで値上げを繰り返すことが可能な流れの基礎を作らなければならない。その為には、品質などについて現状維持だけを目論んでいては絶対ダメで、絶えず向上していけるような背策を講じる必要がある。それもできる限り客観的なCSなどの数値指標のようなものが必要。実際に値上げを許可する権限者は部屋など先ず見ないのだから、数字が大事なのだ。

 

顧客は何を必要としているのか、を知ること

当然、不備を減らしたり、品質を上げるということは前提されているのだけれども、求めていることに対してお金が足りないと思わせないと、値上げというわけにもいかない。極端な話であるが、別に不備や品質は現状維持でホテルサイドがいいと思っていたりしたら、どんなに頑張ったって値上げなんか応じるわけはない。せいぜいが「いつも頑張っていただいてありがとう」程度の表明があるだけだ。もちろんそれは極端な例で、もしそんなホテルならば値上げなど最初から諦めるしかない(最低賃金の値上げなどで上げざるを得ない場合を除く)。

 

何れにしても、ここで大切なことはフロントとのコミュニケーションであることは疑いの余地はない。ただ単に相手の思惑を読み取るだけでなくて、こちら側の意思もなるだけ理解してもらう必要もある。前回の記事で述べたように、今の金額ではきついということをきちんと理解してもらわない限り値上げには結びつかない。私は何度も支配人から「頑張りが足りないのだから値上げなどちゃんちゃらおかしい」のようなことを言われ続けた。だから、実際にはそんなことはなくて頑張っているが無理なものは無理と理解させようと根気強く頑張ったのだ。で、「なるほどー、確かに今の人手不足をなんとかしないと品質上げるのも難しいよねー」とある時おっしゃられたのを聞いて私は涙した(してないしてないw)。

 

出来ることは全てやる、しなくていいことはしない、という区別が大切

常にお金のことを頭に入れよ、という話である。これまた前回話したように、基本は現在の清掃単価で出来ること以上のことはしてはいけない。逆に、その範囲内で出来ることは全部やる。・・・つったって別にきっちり時間を測れと言ってんじゃないしそんな必要もない。この辺のことは、ちょっと細かくなる話なのであるが、実際私が過去で色々と書いてきたことを読めば少しわかると思う。効率化を進めて出来ることを増やしたりとか、色々工夫したりとかで、コスト内に収める、みたいなね。でもコストをオーバーしちゃいかん、という話。

 

 

あとは、具体的な話になりすぎるので割愛。大体は今まで書いてきた中に多分ほとんど書いてます。実際には、仕事しながら計画してって感じで並行的にやってましたけど、戦略の大雑把な感じみたいなのは責任者になってすぐに大体は掴んでました。でも、うまくいくのかなぁという不安はめっちゃくちゃあって、めんどくさいからやめちゃおうかなぁと思ったこともしばしば。普通に、特別なことも考えずに責任者業務やってたらもっと楽だったかもしれませんしね。でも、難しいことやった方がしんどくても楽しかったのは事実です。・・・・自分の給料も上がらんのにバカなことしてんなぁとも思ってましたが(笑)

 

ではまたー

何度も言うけど基本はお金だよ、と言う話。

ある日、あるサイトの口コミで「客室が埃が溜まっている箇所が残っていてきちんと清掃されてないとしか思えませんでした」と書かれた。

 

しかし、客室内の埃(の堆積)を跡形もなく全て除去するだなんて無理だ。何故か。

 

理由は簡単だ。そこまで可能な料金単価設定になってないからだ。以前にこういう話をしている。

 

hotelsekininsya.hatenablog.com

 

ここで、大切なのは客室清掃時間だと言っている。時給であれ違法かもしれない請負歩合制であれ、おそらく大抵は「一室単価」という考え方で料金設定がなされている。かかる経費の最大の部分はメイド人件費だから、結局は、客室清掃時間が最も大きく清掃品質に影響を及ぼす。

 

実際にメイドを何室も頑張ってやった上での結論だ。メイドさんたちの清掃時間も調べ上げている。結局は、やたら綺麗な人はそれだけ時間をかけて清掃していて、早い人は杜撰な清掃しか出来てないのである。で、私が必死こいて考え抜いてほぼ手抜きゼロの状態で清掃しても、設定した客室清掃時間をどうしてもクリア出来ない。その上、それでも後で自分自身でチェックしてみると拭き残しとかあったりするわけだ。

 

絶対無理、出来っこない。

 

だいいち、責任者故に分かっていることなのだが、実際のところ、まだそれでも清掃作業は十分には程遠い。他にもまだやって欲しいことはある。カーペットのシミ取り作業もやって欲しいし、カーペットの部屋の隅を掃除機ノズルを付け替えて丁寧に除塵作業もやって欲しい。家具の引き出しは一旦抜いて丁寧に拭き作業して欲しいし、乾拭きだけで済ませている箇所もできるだけ水拭き&乾拭きにして欲しい。壁面のホコリ取りもやって欲しいし・・・・と実は挙げたらきりがないくらい他にも綺麗にして欲しいと思うところがある。でもそんなレベルどころの騒ぎではないのだ。そこまでやってたら最低賃金を遥かに下回る給与しか払えないだろう。

 

そこをどうにかして、一部を週間メニュー化したりして工夫はしてきたものの、物理的に不可能なものはどうやったって無理である。

 

・・・・というようなことを、支配人に理解してもらうのに一年かかったという話。いや、二年かな。最初の頃、支配人も「あなたの会社が請け負ってるんだから、責任を持って問題のないように清掃する必要がある」という考え方がこびりついていて、お客さんのクレームなどあってはならないという態度で我々に接してきた。だが、単価設定上そんなの絶対無理なのだ。

 

で、私はあまり神経質に、いちいち報告されてくる不備に対応することはせず、地道に減らしていける可能性のある不備を分類して、あくまでも全体の不備件数を減らすことを重要視した。すると、例えばカーペットの隅のホコリ取り作業が無理であっても、そのことでクレームが出てさえも、支配人はあまりうるさく言わなくなったのである。最初の頃は、「あなた私の言ってること聞いてます?」と支配人に非常に厳しい疑いの目を向けられてて結構きつかったですけどね。

 

大事なことは不備やクオリティ以外にもあって、可能な限り客室清掃は早く終わらせる必要もある。シティホテルではお客さんはアウトしたい時間にアウトするし、インしたい時間にインしてくるので、お客さんをお待たせしないことも大切なことなのだ。だからこそその意味でも清掃時間は重要だし、不必要なまでに清掃に時間をかけさせてはいけない。だからこそ、今の料金単価設定ならば、可能なクオリティはここまで、みたいなラインがあることをホテル側に理解してもらわないと、値上げにも繋がらないだろうと言う読みもあった。だって他のホテルと競い合ってるわけだからね。

 

こっちとしては、料金を上げてもらい、人手不足の解消だけでなく、それ以上に人を増やして一人当たりの担当部屋数を減らして一室あたりの清掃時間をもっと取りたい、というようなことも昨年の末ごろには支配人と話せるようにまでなった。なるほど、としっかり理解してもらえた。支配人が料金単価の決定権を持つわけではないけど、でもまずは支配人に理解してもらわないとね。

 

以上は、当たり前の話なのだけど多分当事者以外にはわかりづらい話でもあるのだろう。ともあれ、料金は上げてもらわなければならないが、私の給与はあげるつもりは微塵もないらしいので辞めるしか無いってわけである(笑)