忘れ物ばっかりしやがって!!の日々。
海外のホテルではどうなのか良く知らない。
でも、こんなにクソ丁寧に忘れ物処理するのは日本くらいなんじゃないのか?
と思えるくらいめんどいのが忘れ物処理。
忘れのもの処理について忘れられない出来事がある。この会社に入って最初に受け持った今とは別の、ビジネスホテルで研修していたときのこと。当然私は右も左も分からない状態でやってた。そのホテルは、私が今現場責任者をしているホテルほど忘れ物処理は厳しくなくて、ゴミ箱に入ってなければ原則忘れ物なんてことはなくて、メイドが自分の判断でゴミと忘れ物を分けていた。多分、この業界のことをあまり知らない人はそれが普通と思うだろう。
ある日、いちおう担当に任命されていた私の携帯にそのビジネスホテルの支配人から電話が入った。
「今すぐこちらに来て下さい!大変なことになっています!」
「え?何があったんですか?」
「とにかく直ぐ来て下さい!」
なんか知らんがめっちゃ厳しい口調だった。とにかく、本社事務所にいた私は、自転車で15分ほどのところにあるそのホテルに向かった。ホテルに到着し、フロントさんの所へ行くと、支配人が座るテーブルの上に10万円ほどの札束とその脇にスポーツ新聞が置いてあった。
「これ、先ほどメイドさんがゴミの中から見つけたものです」
「・・・はい」
「あなたの会社ではメイドさんにどういう教育をしているんですか!」
「え?」
「私に何の相談も無く、メイドさんたちが勝手にゴミ袋を漁って探し出したのです。私は昨日の忘れ物の記録に10万円はないが、お客さんが忘れたと問い合わせてきた、誰か覚えていないか?と尋ねただけです」
正直、このとき支配人がいったい何を怒っているのかさっぱり分からなかった。ちなみに、大抵のホテルではその日に出したゴミは丸一日以上保管されている。こうしたお客さんからの問い合わせに対応する為だ。
「申し訳ありません、私はまだ入社したてでこのホテルを任されたばかりで、よく分かっていないことも多くあります。支配人が仰っておられることが良く理解できないので、御説明願えませんか?」
みたいに尋ねたような記憶がある。
「では説明します。もし、仮にこの10万円をメイドさんの誰か知りませんけども、見つけた瞬間に懐に仕舞い込んでしまったらどうなると思いますか?泥棒ですよ。万が一、それが後で発覚したらこのホテルの看板に傷が付きますよ?新人のあなたにもそれくらい分かるでしょ?分かってもらわなければ困ります!」
てな事をかなり厳しい口調でその支配人は仰られた。その理屈は実のところ、いまいち納得できないものだったのだけども、ともかく、丁重に謝罪し、その場を後にするとまだ現場に残っていたメイドさんたちの控え室に向かった。メイドさんたちのリーダーは沈痛な顔で僕を見るなりこういった。
「物凄く怒られたでしょ?ほんとに申し訳ないです。私たちは別に悪気があってゴミを探したんじゃなくて、もしかしたらと思って探してみたらゴミの中にあったスポーツ新聞を振ってみるとポロっと現金の入った封筒が出てきたんです。それで支配人にそれを報告したのにすごく立腹されて・・・」
もうほんと、多分かなりメイドさんたちも支配人に怒られて、リーダーのその人も泣きはらしたのだろう、目の辺りが真っ赤だった。
「だよねぇ、普通に探しただけですからね。で、出てきたからそれを普通に報告したのに、あんな怒る必要ないと僕も思いますけどね」
みたいにあとは慰めあうみたいな、そんな雰囲気でそろそろ現場をあとにしようと思った時そのリーダーはこう言ったのだった。
「・・・言い難かったんですけど実はその部屋、昨日研修で入ってもらった部屋なの」
え? つまり俺? 俺が見逃してたって事?
「でもねぇ、流石に新聞紙の間に挟んであったみたいだから、あれは普通そのまま捨てるよねぇ」
ああ、支配人が10万円の隣に置いていたあのスポーツ新聞、なんか記憶あるなぁと思ったら、あれか。
入社したて間なしの頃のこの出来事以来、私は忘れ物に非常に神経質になったんだけどね。でもそれ以来、これに類した事件は実は頻繁に起こっているんだよね。ていうか、もちろん誰だって忘れ物のひとつや二つはするさ。そんなことは分かってる、でもそれを扱うこちら側からすると、その10万円だって、客がアホだとどうしても言いたくなる。10万円だよ?忘れる?普通?、みたいにね。
ホテルをチェックアウトしてこれから乗る飛行機や新幹線などのチケットを忘れる人、物凄く大切に持ってたレアな品物をわざわざ忘れてくれる人、携帯やらゲーム機もしょっちゅう忘れていくし、その充電器なんかほとんど毎日数個は忘れ物として出てくる。こんだけ毎日やってると、ここのホテルにとまりに来る客は馬鹿ばっかりか?と言いたくもなるものだ。もちろん、忘れ物をする人は実際には宿泊客の一割にも満たないと思うけども。
あるいは、ホテルに実際には忘れていないのに、強硬にホテルに忘れたと主張する客。そりゃね、ホテルだって評判大事だからさ、探すさ。本気でめっちゃ一生懸命探すよ、何人もの人手と時間を使ってね。でも、洗濯する為に回収した大量のシーツやタオルからそれを探すのがどんだけ手間かわかってんのか?と言いたくもなるものです。もちろんこちらはそれが仕事。そういうリスクもあるってのも頭では理解しているし、それに対する出来る限りの事前準備的なこともしている。仕事だからしょうがない、しょうがないけどさ、大変なんだって。自宅に帰ってさあビールでもと思った矢先に電話が鳴り「忘れ物を捜して下さい」みたいに言われて再びホテルに戻る俺の気持ちを理解して欲しい、とかねw
それで出てきたら、実際のところ、労力をかけたぶん報われたなぁって気持ちにも少しはなるんだけども、どんなに探したって結果的にないって時はほんと疲労だけが残る。一度、このホテルで使ってるのと見た目そっくりだけど微妙に違うタオルを回収してしまった事があり、それを後から見つけ出した時にはあれはなんとも言えない妙な達成感みたいなものを感じたものである。
なんかだらだら書いてたら最初書こうと思ってた内容と随分違ってしまったけども、ともかくホテルに泊まられる方は、せめて大事なものだけでも忘れないようにして下さいとだけは言いたいです。我々も必死で探しますけど、もしあったとしても見つけられるとまでは保証できませんしね。