賃金の闇。偽装請負が蔓延っているであろう客室清掃業界について。
洋の東西に関わらず、とんでもねー指摘をするお客様がおられる。以前は「日本人は特にうるさい」などと思っていたが、色々経験していると現実はそんなことはなくて、日本人が特に、などということはないと思うしかない。この前は、アフリカ大陸からお越しになられたと思われるお客様が「部屋に小さな小バエが一匹いて非常に不快だった」とアンケートにしたためられた。もう、この様なことを公のブログに書く事自体差別的なことだ。
というわけで、こまけーことを仰るかどうかは個々人によるのであって、その人がどこ出身であるかなど全く関係がないのである。我々が持つ先入観とやらをものの見事に打ち砕くのが現実なのだ。
だがしかし。先入観によるいわゆる差別というのは駄目だとしても、日本における職業別賃金格差というのはどうにかならんのかとは常々思っている。高貴な職業の賃金は高くて、我々のようなホテル客室清掃労働者の賃金が低いというのは、これはれっきとした職業差別であるに他ならない。なるほど、世間には難しい仕事や簡単な仕事があり、そうした質的な差から賃金格差が生じる、とは常識的な考え方である一方、すべての労働者は等しく同じ単位としての労働時間を供給しているのだから、今のような賃金格差は大きすぎる。安倍政権は同一労働同一賃金方針を打ち出しているが、もう一歩踏み込んで労働に対する価値というものを考えていただきたいものである。
というような、少々小難しい話はさておき、客室清掃におけるメイドさんたちへの賃金の支払いというのは、求人募集媒体に掲載される内容を見る限りいわゆる時給制が大半である。しかしながら、時給制なのは法律上の問題としてそう公に向けては記載しないとややこしい問題があるからという事情もあって、実際には部屋数に応じた歩合制となっているところもおそらくかなりある。隠された闇の部分であるからその実態は不明である。
「ややこしい問題」とは労働法における雇用とは、時間や日数等を単位とする固定給を基本とするのが大原則であり、それ以外の制度で雇用関係とする事は非常に困難か*1あるいは禁止されているからだ。全ての雇用者はそのように労働法規により権利が守られているのだが、日本の労働法規を司るべき関係機関の脆弱さもあってほとんど取り締まられていないと思われる。そうした違法な歩合制、一般的にいう請負契約としているところはホテル客室清掃では多分かなり多いはず。これおそらく大半はいわゆる「偽装請負」である。
請負契約とは法的には、
- 作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負う
- 作業に従事する労働者を、指揮監督する
- 作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負う
- 自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでない
偽装請負 - Wikipediaより引用
の条件を満たさなければならない。どこのホテルに上記四条件を満たす個人事業主のメイドさんがいるだろうか? 例えば1、もしクレームで返金しなければならなくなってメイドさんが返金するというのならば条件を満たすかもしれないがそれは先ずないだろうし、2の言う労働者と指揮監督者は個人事業主だから両者ともメイドさん自身なのだけどメイドを指揮監督する責任者がいない現場などあるはずがないし、3は使用者が自分自身なので飛ばすとして、4なんかメイドさんはまさに単に肉体労働提供してるだけだしね。
何故企業がホテル客室清掃のメイドさんたちを請負契約するかというと、雇用保険や社会保険を考慮する必要がないこと、有給を与える必要がないこと、あるいはもう法で定められる地域最低賃金など全く考慮する必要がないなど企業にとって都合がいいからである。また企業は委託しているホテルから消費税込で委託料金を貰っているが、個人事業主に消費税納付義務はありえない(1000万稼げるわけがない)から、この辺をうまくやると消費税分すらもちょろまかしてしまえる。たぶん他にも私が気付いていないだけで、利点はまだあるだろう。
しかも、メイドさんたちにも非常に説明しやすい利点もある。「個々人で清掃スピードが違うから、公平に部屋数でお金払う制度にしているんだよ。みんな同じ時給だったら不公平でしょ」とか。そのとおりと納得しがちになる人も多いが、スピードが違う・清掃数が違うってことで賃金差を公平にしたいんだったら時給のほかに何かインセンティブ的な費用をつければ済む話だ。それなら別に違法ではない。実際の理由は全然そんなところにはなくて、そもそも私がこのブログでほんとに口が避けてしまいそうになるくらい何度も言っているようにホテルが外部企業に委託する料金単価が安過ぎるからである。だから、請負企業は危ない橋を渡ってでも仕事を得、利益をどうにかして確保しようとしてしまうのだ。
酷いところになると、(請負の場合は換算時給として)地域最低時給をはるかに下回る賃金しか支払われていないホテルすらあるらしいと聞く。こうした業界の闇の部分、実態として放置されているとしか思えないのだが、おそらく日本人の多くが労働法規に無知すぎるという問題が根にあるのではないかと思う。例えばいまだに「有給ってないんですよね?」とか聞いたりする人がいるんだけど、有給の最低ラインは労働法規に定められていて、それは労働者の権利としてきっちり保障されているものであり、有給を企業が労働者に与えない事は厳格に違法なのである。
流石に、こうも人手不足で困り果てるしかない状況になってきたからか、客室清掃の求人情報レベルでは概ね「有給あり」程度の事は広告にうたっているものが多いようだが。だが、本来謳う必要などない。あまりにも日本人が労働者の権利を知らなさ過ぎるから企業になめられてるのだ。
だから、客室清掃従事者は世間に対し声を上げて欲しい。このブログでこうしたことを書くのも私としてはその一助となればと思うからだ。とにかく安い業務委託料金しか払っていないホテルは料金をもっと上げて欲しい。安い料金でやってくれる企業に任せたいのは分かるが、それが違法を招き、メイドさんたちを苦しめているという事を分かっていただきたい。