ホテル客室清掃のお話。

ホテル客室清掃についての色々な話を、現場作業から現場責任者、担当者まで経験してきた人が語るっていうブログです。

ビルメン業者や派遣会社の"中抜き"の件

 

今回もネットで見かけた記事について思うことを書きます。このツイートは以降連投になっているのでそちらも合わせてご覧下さい。

 

さて、私はホテルの経営者でもないし、ビルメン会社の経営者ですらない、しがないサラリーマンですから、多くのホテルがどうして客室清掃員を外部委託するのかよくわかっていません。もちろん、自社で客室清掃員を雇用しているホテルも多くありますが、単純に利益だけを考えると、中間マージンの発生しない自社雇用の方がコスト的には安い筈なのに「どうして?」と思うことは昔からありました。

 

昔勤めていた会社の先輩はこう言いました。「委託するのはさ、ビルメン会社は専門業者だけに安くやるノウハウを持っていると思われているから」だと。付け加えてこうも言いました、「実際にはほとんどノウハウなんかいらないけどなw」と。私は少ししか実態を知りませんが、ホテル客室清掃に特別なノウハウが必要だと思ったことはありません。人を集めて、教育し、管理して毎日客室清掃を滞りなく実施するのは、ホテル側が自社でやったって大きく違うことはない筈です。

 

人集めなんかは使えるものを使うだけだし、そんな特別な極秘扱いの如き人材収集法を持ってる会社など存在する筈もないし、慣れるまでは大変かもしれないけど高度な知識が必要な筈もないし、シフトなど人員管理をするのはどんな仕事だって変わらないわけで、要するに大した話でもない。ならば、マージンのいらない自社管理をすればいいのにと。それがめんどくさいんでしょうか?

 

昨今では、私の聞こえてくる範囲ではありますが、ホテルが外部委託業者へやってもらうとして複数者に依頼しても、見積もり金額が高くて見合わないことがほとんどらしいですから、そうであるならばもはや外部委託で複数に値段を競わせて安さを期待できる時代でもなくなってきていると思います。

 

そりゃ昔は酷かったと聞いたのは一度や二度ではありません。ビルメン等の業者は喉から手が出るほど仕事が欲しいものですから、安値で叩き合って自らの首を絞めてきたとはよく聞く話です。今でもそれが続いている部分も大きいようで、客室清掃に限らず、ビルメン業種では安値で請け負う状況が続いているともよく聞きます。余談ですが、床清掃のような比較的簡単ないわゆる定期清掃的な仕事では、人件費を出すのが精一杯という話も今だによく聞きます。

 

話を戻しますと、ビルメン業者や派遣等の外部委託業者にしてみれば、マージンを取らないと受託する意味がないわけですから、マージンを引いた残りから清掃員の人件費などが捻出されるわけで、これが清掃員の人件費を低賃金で停滞させている要因の一つでもあります。結局の賃金は、募集広告などで公開されてしまうので、それが一つの参考値になってしまい、地域的な平均賃金などというのも生じてしまいます。別に賃金カルテル組んでいるわけでもないのに、募集広告が賃金情報を媒介して、暗黙のうちに事実上のカルテルになってしまうわけです。

 

前の会社では社長がそれら広告を見て、「この界隈の時給はこれだけだから、こっちの時給もこれ以上はあげられん。他はなんとかしてるんだから、お前らもそれでやれ」と、いくら賃金値上げ交渉を持っていっても突っ返されたことは一度や二度じゃありません。人集めに苦労するのは低賃金だからじゃなくて、我々社員の管理責任だというわけです。私はそれでは広告費の無駄だ、と何度も食い下がりましたが(相手は怖い鬼社長じゃなくてその下の部長でしたが)、委託側ホテルが値上げでもしてくれない限り無理でした。

 

その度にため息つき、内輪で愚痴を言い合ったりする程度のことしかできませんでしたが、一方で社長の経営脳の中身もまぁ、理解はしていました。どう計算したって、当時あのホテルでは利益は雀の涙ほどしか出ていなかったからです。以前にブログで書きましたが、偽装請負形式という違法なことをやっていたのも、普通にやっていたら累積赤字で会社が本当に潰れるからです。

 

そういうわけで、前の会社でホテル清掃責任者をやっていた時代は、いっつもパートさん達の給与の安さ、それでやってもらっていることに頭がさがる思いで毎日仕事していたのですけど、上のツイートではちょっと意外なことが書かれていました。

 

 

え? 受託金額の半分以上が利益? お前らどんだけぼったくられとんねん(笑)。どこかよくわかりませんが地方らしく、そんなの世界が違うとしか言いようがありません。私は実際に、毎月の請求処理までしていたので実際の請負金額を知っていて、人件費等の計算ももちろんしていましたから、利益が多くても一割に満たないくらいしかないことは知っていました(企業のいわゆるほんとの儲けになる一般管理費を含んでないんですよ、その一割って)。

 

競合他社がなかったのか、20年近くやってたってことなのでちょっとずつの値上げでいつの間にかそんな金額になっていたのか、それはわかりませんけど、ザルにも程があります。客室清掃費なんてぶっちゃけ、単純に人件費計算してちょっと他の費用を適当に足せば大体の概算なんて簡単なのに、幾ら何でも半分以上が業者の利益ってあり得なさ過ぎます。

 

そもそも、業者に委託するのは「安くやってくれるノウハウがあるから」だと仮定すれば、そんな暴利が許されるわけはないし、とっとと自社でやればよかっただけの話ではないの? と思いますけど。ともあれ、理屈に合いません。

 

それで、なんだか知らないけど、リツイートなどの反応で「業者の中抜き」が悪いみたいな言われ方をされているのですが、自由経済社会でやってるんだから、最低賃金下回る(※そんな人もいたし、そうでない人もいましたよ)私の前の会社みたいな悪質な例は例外としても、違法でない限りは悪いという言い方はちょっと聞き捨てならない感じでした。聞き捨てられなくなったのでこうして記事書いているわけですが。

 

もちろん、以前から書いてきた通り、客室清掃はハードだし、人手も不足しがちな職種だからもっと賃金を上げるべきだとはずっと思っています。が、それとは別に賃金を出す企業にとっては企業活動の一環であり、利益も出していかなければならないし、受託して引き受ける以上は中抜きをしなければ意味はありません。それを言うならば、ホテル側に対し外部委託禁止を主張するならまだわかります。

 

福島第一原発の現場従業員が、多重の下請け構造で散々中抜きされて安い賃金で引き受けている、みたいな記事を読むたびに、"中抜き"って酷いなぁと思うし、あらゆる業界に蔓延るそうした日本の中抜き文化みたいなものが、日本に格差社会を生み出す大きな要因の一つにもなっていると言う気もします。だから、"中抜き"を弁護する気もありません。これもまた余談ですが、日本の生産性が低い大きな要因はこうした多重下請け中抜き社会にあったりするのではないかとも思ったりもしますが・・・・

 

それはそれとして、上のツイートにあるような半分以上が業者の利益なんて、とにかく一般的な話ではないはずであると、それだけは言っておきます。少なくとも完全に別世界です。初めて聞きました。